最近、メディアはトランプ大統領の関税問題一色ですよね。それとは別にトランプ大統領が大の“ディール”好きと聞いて根っからの商売人なのかぁ~と。商売人ならちゃんと色々と準備して交渉しないのかなぁ~とこの関税問題は診ていました。
こんにちは。東京都よろず支援拠点、チーフコーディネーターの弥冨尚志です。
このコラムですが結論的な言い方を先にすれば自社の賃上げをしたいからという理由での価格転嫁は難しいという事です。
お客様・市場と診た時に自社が生産する「商品」や「サービス」に関して求められているモノは何か?それが明確だからこそ、商売が成り立ちますよね。その時、自社の従業員の給料云々とかは全く関係の無い話なんです。と言うか、そこだけを抜き出して価格に転嫁するということは交渉する上ではなかなか理解が得られないんです。それについて事例を交えて説明していきますね。
【お饅頭は美味しいけど作っている人はよく知らないし・・・】
会社帰りに近所の商店街の和菓子屋さんで薄皮饅頭を買うのが楽しみ。
「おじさん、いつものお饅頭、10個ちょうだい。」
「へい、毎度。1500円になります。」
「あれ?10個だよ。1000円じゃないの?」
「いや~、最近の物価高で、小麦・小豆・砂糖の材料費が高くなって値上げしないとうちもやっていけないんですよ。」
「そっか、どこも大変だよね。まぁ1個50円アップでいつも美味しいお饅頭が食べられるならしょうがないね。
こういう会話、最近よく聞きます。しかし小麦・小豆・砂糖の材料費ではなく「ウチの職人さんの賃金上げるために値上げしました。」と言われたらどう思いますか?
「うん?どうして会ったことも話したことも見たことも無い職人さんの賃金アップを私が負担しなければいけないの?」そう感じませんか?
これを製造業のサプライチェーンで考えてみると、買い手が商品を入手する前に売り手側で材料が加工されて商品の一部になります。材料は自社の価値にもつながることから材料だけ見れば自社の商品と直結しやすいですね。
しかしそこにかかる売り手側の加工賃(賃金)は商品と直結しません。
売り手企業の賃金が高かろうが安かろうが材料の価格に影響するものではありません。
賃金≒加工技術費、加工技術費≒加工レベル、加工レベル≒自社の価値。その加工技術とコストとのバランスから取引が成立している、それが自社の付加価値です。
だから「賃金」だけ取り出して「上げてください」と言われてもそのつながりを説明できないと説得できないと思います。
【価格転嫁に似たコトバ。責任転嫁】
最近の急激な物価高騰で全業種的に困ったことになったことで、材料やエネルギーコストの上昇分を買い手側に「転嫁」しないと和菓子屋さんの事例の様にやっていけなくなる、という事で国も価格転嫁を強力に推進しています。それは急いで行わないと事業基盤の弱い中小企業はたちまち立ち行かなくなります。
この活動は一定程度、社会全体、最終的に消費者も受け入れつつあります。しかし、それは消費財の価格高騰を招く結果になりました。それでは所得も増えないといけません。
そこで今度はお給料を上げた分、又は賃上げした分の転嫁が必要だ、ということなったのです。
材料の時は上がった分の「転嫁」でよかったんです。しかし「賃上げ」は転嫁するものではありません。賃金=自社の価値を決めているものです。その価値は転嫁と言う発想で行うものではありません。価格・値決めと言うのは経営にとってとても大事な意思決定です。その意思決定は同時に自社の「価値」は何かという問いかけでもあります。
自社の企業価値の源泉は「人材」とも言えます。その人材の質を決める要素の賃金を「転嫁」とするというの考え方は経営の視点から診ると買い手(顧客)に委ねているような「責任転嫁」とも言えます。先ずは自社の価値をしっかり見極めること、そこから始め且つ永続的に行う必要があります。価格転嫁ではなく価格交渉という生産性をあげる交渉技術を磨いていく事こそが経営の本質です。
生産性向上の交渉技術こそ価格交渉であり“ディール”なんです。
【人材は投資。投資額を決めるのは経営者】
先ほどの和菓子屋さんの事例で見てもお客さんからすると、従業員のお給料は全く関係のない話であることは理解できますよね。自分の口に入る餡子の元の大豆や砂糖が事業者努力で吸収できないほど価格上昇している昨今の情勢であれば、「まぁ美味しいお饅頭が食べられれば、いいや。」と受け入れやすいですね。
これと似た感覚で「お店の外装をリニューアルしたら意外に費用が掛かったので値上げします。」と言われたらどうですか?
これもお饅頭の品質に関係ないので納得感は得られづらいですよね。これが餡の練りの装置をいいものに買い替えたので練り餡が更に滑らかになったらどうでしょう。
でも「機械が意外に高額だったので少し値上げさせてください。」これも受入難いと感じる方もいるでしょうが、まぁまぁ理解できるかもしれません。
美味しいお饅頭という価値を維持・向上させるためであれば、それは応じやすいという事です。商品・設備、そして人材も企業にとっては「投資」であることは間違いありません。
しかし人材投資は永続的に続けないと事業の機能を維持できないので再投資です。人材投資、本来それは自社の付加価値を高めていくために必要な投資です。
原材料や設備の更新は取引する以上、顧客もその必要性は理解されやすい。
でも人件費は自社にとっての再投資なので、 顧客にとってその再投資に付き合う必要性は低いのです。
ここまでお話すれば社員の給与(賃金)をアップさせたいと思っている方はどうすればいいか、わかってきましたよね。
そうです、単に賃上げという理由ではないとした上で、商品・サービスの本体価格に盛り込むことです。
自社の価値を如何に訴求するかです。すでに材料高騰を受けてすでに価格交渉を行い認めてもらっているのに、更になんて言えばいいんだ、と言う事になるかと思います。
そうですね。前回は原材料費や電気代など製造原価(仕入れ原価)の転嫁をお願いしましたが、今後とも貴社と末永いお付き合いさせて頂くには雇用の維持と拡大が必要ですのでその分を商品価額に反映させて頂きました、というディールになるんですね。
実はここから先の具体的ディールの方法や手段は、「業種・業態」・「経営状況」・「取引先状況」・「事業構造」等々、個別具体的にその手法は全く違ってきます。
ここから先は、実践の場では個別・具体的な「交渉術」が必要であり、経営的な側面からは中長期的な戦略の再構築の必要性が高まる場合があります。賃金=人材がテーマになるので経営の根幹にも関わるからです。
ここまでお読みいただいた方は是非、「よろず」にご相談ください。
1者、1社皆様のご事情をヒアリングさせて頂きアドバイスさせて頂ければと思います。
最後までお読み頂き有難うございます。