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中小企業はワークショップで人材育成 ~ビジネス問題解決型分野のワークショップ~

中小企業はワークショップで人材育成 ビジネス問題解決型分野のワークショップ

東京都よろず支援拠点コーディネーターの佐藤裕二です。今回は経営者の皆さんに「ワークショップ」を実施して人材育成に取組みませんかという提案をさせていただきます。

【ワークショップの歴史】

ワークショップは、もともと工芸や技術の伝承を目的とした集まりとして始まりました。それが、現代のビジネスや教育の分野で、参加者が積極的に学びや議論に参加し、新しい知識やスキルを身につける手法として広く利用されています。
20世紀初頭の教育理論に基づき、参加者中心の学習手法として発展し、組織内の人材育成やイノベーション促進に有効な手法として定着しました。

【ワークショップの種類】

ワークショップの種類として以下の5つが代表的なものになります。

1.ブレインストーミング型:アイデア創出や課題解決に焦点を当てる。
2.ケーススタディ型:実例を分析し、実践的な学びを得る。
3.ロールプレイ型:役割演技を通じてスキルやコミュニケーションを強化する。
4.グループディスカッション型:異なる意見を共有し、理解を深める。
5.ワークショップ+研修型:講義と実践を組み合わせた形式。

【ワークショップの原理】

ワークショップには5つの原理があるとされています。

1.参加者中心の原理(Participant-Centered Principle)

ワークショップは参加者が主役です。参加者が積極的に関与し、意見やアイデアを出し合うことで、学びや気づきが深まります。ファシリテーターはあくまでサポート役として、参加者の自主性を促します。

2. 目的に沿った設計の原理(Purpose-Driven Design)

すべての活動や内容は、明確な目的に沿って設計されます。不明確なまま進めると効果が薄れるため、最初に目的を設定し、それに基づいてプログラムや議題を選びます。

3. 対話と交流の促進原理(Dialogue and Interaction)

議論や討議を重視し、参加者同士が積極的に意見交換を行える環境をつくります。一方通行の講義ではなく、双方向性のコミュニケーションを促します。

4.実践と体験の原理(Experiential Learning)

体験を通じて学びを深めることを重視します。シミュレーションや演習、ディスカッションなどを取り入れ、実践的な学びを促進します。

5.継続と振り返りの原理(Continuity and Reflection)

1回のセッションだけで終わるのではなく、継続的な活動や振り返りの時間を設けることで、学習内容を定着させ、次への意欲や改善点を見つけることが重要です。

【ワークショップの応用】

ワークショップは多岐にわたりますが、主に次の4つの分野に分けて説明できます。

1.人間系(教育・学習分野)

原点であり、一番歴史が古いものです。教師や研修講師のスキルに必須となっています。

内容例:学校や研修機関での教育活動、社員研修、スキルアップセッションなどです。
目的:参加者の主体的な学びを促し、理解度や実践力を高めます。グループ討議や実演、ワークショップ形式の授業が中心になります。
特徴:対話と体験を通じて、知識の定着と応用力を養うことになります。

2.組織系(ビジネス・問題解決型分野)

経営者の皆さんが最も関心が高いと思われる分野で組織の効果性を高める活動と組織の健全性を高める活動になります。

内容例:新商品企画会議、チームビルディング、経営戦略の策定などです。
目的:組織内のコミュニケーション促進やイノベーション創出、問題解決になります。
特徴:多様な意見を引き出し、創造的な解決策や新しいアイデアを生み出す場として機能します。

3.社会系(地域・社会の合意形成の分野)

コミュニティや社会の問題に対して全員が納得できる解決策を民主的に作り上げることになるワークショップです。

内容例:地域振興策の検討、防災や環境問題の取り組み、市民参加型のプロジェクトなどです。
目的:住民や関係者が一体となって議論し、課題解決に向けた具体的アクションを考えることになります。
特徴:参加型・協働型の手法で、多様な意見とアイデアを取り入れることができます。

4.複合系(創造性・イノベーションの促進分野)

人・組織・社会は密接につながり、本当の変容にはすべてが変わる必要があります。この3つを区別せずに取り扱うワークショップです。

内容例:デザイン思考ワークショップ、アイデアソン、未来予測セッション。
目的:新しいアイデアや技術の創出、次世代のビジネスや社会の構想などです。
特徴:発想を自由にし、多角的な視点から問題を捉えることで、革新的な解決策や商品を生み出すことができます。

 これらの4つの分野でのワークショップは、それぞれのニーズや目的に合わせてカスタマイズされ、参加者同士の対話や共同作業を通じて、効果的な結果をもたらします。

【ファシリテーターの重要性】

ワークショップを効果的に運営し、参加者の学びや議論を促進するためには、ワークショップを取り仕切る優秀なファシリテーターの存在が不可欠です。

中小企業で実施する場合、経営者がファシリテーターとなると、意見が出にくい場合があります。社内の中堅層から指名する、社外の知人にお願いする、外部の専門機関に依頼することなどを考える必要があります。

以下の3つの能力を持つ人、機関にファシリテーターをお願いしましょう。

1.ファシリテーションスキル

  • 参加者の意見を引き出し、議論をスムーズに進行させる能力を持つ。
  • 議論の偏りや停滞を防ぎ、多様な意見をまとめる方法を持つこと。

例:適切な質問を投げかける、話をまとめる、参加者全体に均等に発言を促す。

2.コミュニケーションスキル

  • 明確に意見や指示を伝えるだけでなく、傾聴力も重要になります。
  • 参加者の意見や感情を理解し、適切に反応できる能力を持つこと。

例:非言語コミュニケーション、フィードバックの提供、傾聴の姿勢。

3.柔軟性(アダプタビリティ)

  • 予期せぬ事態や参加者の反応に応じて進行を調整できる能力を持つ。
  • 予定したプログラムを柔軟に変更し、輪を広げたり内容を深めたりできること。

例:話が盛り上がったときに深堀りしたり、時間が足りない場合に迅速に調整。

【ワークショップの進め方】

ワークショップは以下のように進めていきます。

  • 目的設定:何を達成したいのか明確にします。
  • テーマ決定:具体的なテーマを設定します。
  • 参加者の募集と案内:対象者を選定し、案内を行います。
  • 事前準備:必要な資料や道具、場所の確保などを行います。
  • ファシリテーション:進行役を立て、議論や活動をスムーズに進めます。
  • 活動実施:実際のワークショップを行います。
  • 振り返りとフィードバック:参加者の意見を収集し、次回に活かします。

ワークショップは、単なる研修ではなく、参加者同士の交流やアイデアの創出を促進し、組織の活性化や人材育成に非常に効果的です。
経営者の皆さんが積極的に導入することで、社員のスキルやモチベーション向上につながります。

【組織系(ビジネス・問題解決型分野)のワークショップの具体的手法】

4つの分野の中で経営者の皆さんが最も実施したいと考えるのは組織系(ビジネス・問題解決型分野)のワークショップではないかと思われます。その具体的な手法を紹介します。

・ブレインストーミング   

アイデア創出・問題解決が目的、参加者が自由に意見を出し合い、多数のアイデアを集めることにより、多様な意見の収集、創造性の促進ができます。

・SWOT分析ワークショップ

組織の強み・弱み、外部機会・脅威の整理ができ、SWOTマトリックス作成をグループで行い、戦略の方向性を明確化して現状把握と戦略立案の基礎固めができます。

・未来予測シナリオ作成

長期的な戦略策定、イノベーションのアイデア創出が目的で、「将来のシナリオ」を複数作り、それに対する対応策の検討をします。長期的視点の養成、イノベーション促進ができます。

・ファイブフォース分析   

業界の競争環境分析をします。競争者、供給業者、顧客、新規参入者、代替品の観点から分析し、競争環境理解と戦略の差別化ができます。

・ロールプレイによるコミュニケーション研修

組織内のコミュニケーション改善が目的です。実際の業務場面を想定した役割演技を行い、課題点や改善策を議論します。実践的なスキル向上、状況認識の深化ができます。

・課題解決ワークショップ

実際の問題解決・施策立案が目的です。グループで問題を洗い出し、原因分析、解決策を提案して共有します。実践的な問題解決能力の強化ができます。
これらの手法は組み合わせて導入されることも多く、参加者の積極的な関与や意見交換によって、実践的な戦略立案や組織改善につながります。

【最初にやってほしい「好き、嫌いのワークショップ」】

最後に私が最初に企業で実施してもらうワークショップをご紹介しましょう。
付箋と模造紙を使う課題解決ワークショップです。

1.まずどんな作業をするか説明します。

  • 1班4~6名で個人作業⇒グループ作業の順で進めます
  • 個人作業は毎回のテーマに対する考えなどを付箋紙に記入します
  • 付箋紙には、一つのことだけを書きます
  • 個人作業が終わったらグループ作業を行います
  • 付箋紙を模造紙に貼ります
  • 同じ内容や似た内容のものを一つにまとめます
  • 一つにまとめたものに「表題」を付けます
  • 各班がまとめた結果を発表します

2.次に基本ルールを説明します。

  • 各テーマに対し、一人3つ以上書いてください
  • 傍観者にならないでください
  • 職場の上司・部下の関係性は持ち込まないでください
  • 他の人が書いたことに対して受入れ、批判はしないでください
  • 少数意見に注目してください

3.最初のテーマを「当社の良いところ、好きなところを教えてください。」とします。

次のテーマは「当社の悪いところ、直した方がいいと思うことを教えてください。」です。

書けたらグループで作業してもらいます。それぞれの付箋を同じ、近い内容でグループ分けして、それぞれのグループに表題をつけてもらいます。ここで皆が同じ良いところ、悪いところを書くことも多いですが、違う視点も多々表出されます。

「同じことを考えてたんだ」
「そんなこと考えたこともなかった」

このようなそれぞれの感想が生まれます。あの人はこんなこと考えていたのか。この人は私と同じ思いを持っているのかとグループのメンバーを見る目が少し変わります。
グループごとに付箋の内容や表題は違います。それぞれのグループの代表にそのグループでの付箋ままとめ方や表題のつけ方などの議論の内容を説明してもらいます。次の説明のときには別の方に説明してもらうようにして、全員が発言するように運営します。

4.業務課題を明らかに

次に業務課題を明らかにするための質問に移っていきます。

「普段やっている業務を教えてください。」
「業務の周期を教えてください。」

ここまでで普段の業務の文書化、見える化を進めます。そして

「普段の業務の中で、気になることを洗い出してみましょう。」
「困っていること、トラブったこと、注意してほしいことなどを洗い出してみましょう。」

と質問と作業を進めていきます。

ここで会社の業務における問題点がはっきりしてきます。当然経営者が想定している問題は出てくると思われます。しかし違う問題が重要なことや、改善のためのボトルネックがわかる場合もあります。

5.課題解決のために

さらに課題解決の手法も考えてもらいます。

「なぜ、この問題が起きているんでしょうか?」
「それぞれの「問題」の「解決策」を書き出してみましょう。」

と質問と作業をさらに進めていきます。

6.最後に

「どのように改善を進めていけばいいでしょうか?」という質問になります。
ここでは以下のように方向性を提示すると良いと思います。

1.「改善活動」の方針を考える 

2.「方針」に沿って活動するための「実行計画」を立案する 

3.「実行計画」では、いつ、だれが、何を、どんな方法で行動すればいいのか、分担を決める 

4.行動結果を記録して、評価する仕組みを決める。ここではできた理由、できなかった理由を明確にすることが大切です。

ワークショップで示された実行計画は自分たちで考えたものになります。経営者の指示で「やらなければいけない改善計画」ではなく、「自分たちが考えてたどり着いた改善計画」ものになります。

参加者が改善活動を実施する意欲と責任感はかなり高いものになるようです。そして一番大切なのはワークショップをやりっぱなしにしないで、この解決策の実施をフォローアップしていくことです。

皆様の会社でもぜひ「好きなところ」「嫌いなところ」というあたりからワークショップ実施してはいかがでしょう。「きらいなところ」が示されてもお怒りにならないように注意してください。

組織内の課題解決や人材育成に向けワークショップを検討されたいという方は是非東京都よろず支援拠点にご相談ください。

※参考文献「これからはじめるワークショップ」堀公俊著 日経文庫
「ワークショップのアイデア帳」ワークショップ探検部著 株式会社翔泳社

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