1 はじめに
こんにちは。東京都よろず支援拠点 コーディネーターの小松恒之です。
昨今の事業承継やM&Aの増加に伴い、中小企業の株式の譲渡が行われることも多くなってきました。
その一方、株式は、商品や工作機械といった動産と異なりますし、登記制度のある不動産とも異なるものです。そのため、株式を譲渡する際には、単なる当事者間の合意だけでなく、会社法上の手続にも留意する必要があります。
そこで、このブログでは、中小企業(株式会社)の株式を個人間で譲渡するために必要な契約書や手続などを簡単に解説します。なお、有限会社や合同会社の株式・持分を譲渡する場合や、譲渡人・譲受人が法人である場合には、このブログに記載する内容と異なる扱いになる可能性がありますので、弁護士等の専門家にご相談ください。
2 株式譲渡に必要な契約書
株式の譲渡は、「譲渡人」(ゆずりわたしにん)と「譲受人」(ゆずりうけにん)との間で、譲渡人の保有する株式を譲受人に譲り渡すことを合意することによって成立します。なお、株式の「売買」という時には、譲渡人が売主、譲受人が買主となります。また、譲渡の対象となる株式を発行する会社を「対象会社」といいます。
株式の譲渡は、譲渡人と譲受人の合意のみによって(口約束でも)成立するため、契約書が必要ないと思われるかもしれません。もっとも、会社の株主が誰なのかということは会社にとって非常に重要なことですし、後日に株式譲渡の事実や条件が分からないと紛争が生じるおそれがあるため、契約書を作成することを推奨します。
株式の譲渡にあたって最低限必要な条項を盛り込んだ契約書の文案は、本ブログの最後にご案内します。
3 株式譲渡に必要な会社法上の手続
(1)株券の交付
株式譲渡にあたり最も気を付けたいのが、対象会社が株券を発行する会社である場合です。
対象会社の登記や定款に「株券を発行する旨の定め」がある場合には、その会社は株券発行会社となります。なお、会社法の改正が行われた平成18年以前に設立された会社では、株券発行会社が原則であったため、そのまま株券発行会社であることが多いと思われます。
対象会社が株券発行会社である場合、株式譲渡とともに株券(現物)の交付が行われなければ、株式譲渡は有効となりません(会社法128条1項)。
このとき、譲渡人が株券を紛失してしまっている場合には、(a) 株券喪失手続を完了した上で対象会社から株券の再発行を受けるか、(b) 対象会社の定款変更・登記を経て株券不発行会社としてから株式譲渡を行う必要があります。ただし、(a) 株券喪失手続には1年以上を要するほか、(b) 株券不発行化には、所定の通知又は公告、株主総会の特別決議による定款変更及び登記を要します。これらの手続には、弁護士や司法書士といった専門家のサポートを得ることをお薦めします。
なお、会社が一度も株券を発行したことがなければ、株券の交付を伴わなくても株式譲渡が有効であると判断された最高裁判例(最高裁判所令和6年4月19日判決)もありますが、個別具体的な事案にあてはめられるかどうか等については弁護士等の専門家にご相談ください。
(2)株式譲渡の承認
中小企業の株式は、上場企業と異なり、自由な譲渡が制限されていることがほとんどです。会社の登記や定款をご覧いただくと、「株式の譲渡制限に関する規定」という項目に、株式譲渡にあたり株主総会や取締役会の承認を必要とする旨が記載されているのではないでしょうか。こうした制限が付されている株式を、譲渡制限株式と呼びます。
譲渡制限株式を譲渡する場合には、対象会社の登記や定款に記載されている承認機関(一般的には株主総会や取締役会)の承認を得る必要があります。
対象会社による承認は、株式譲渡契約書(上記2)の締結・実行前に行っても、締結・実行後に行っても、いずれでも差し支えありません。なお、株式譲渡の実行後に会社から承認を受ける場合、会社が承認するまでの間は、会社は譲渡人を株主と扱えば足りるため、譲受人にとっては少し注意が必要です。
(3)株主名簿の名義書換
会社は、株主を一覧化した「株主名簿」を作成しておかなければならないとされています。株主名簿に記載すべき事項は、以下のとおりです。
(a)株主の氏名又は名称及び住所
(b)株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
(c)株主が株式を取得した日
(d)株式会社が株券発行会社である場合には、(b)の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号
譲渡人と譲受人との間で株式譲渡が行われた後は、対象会社に株主名簿の名義を書き換えてもらう必要があります。株主名簿の名義書換が行われないと、譲受人は、対象会社(株券不発行会社の場合には対象会社だけでなく第三者)に対して、株式を譲り受けたことを主張することができないこととなります(会社法130条)。
そして、譲渡人と譲受人が共同で対象会社に対して株主名簿の名義書換を請求すると、対象会社は遅滞なく株主名簿の名義書換に応じなければなりません。
4 株式譲渡の代金
譲渡人が譲受人に株式を譲り渡す際、その代金を定めておくことが一般的です。もっとも、株式の代金をどのように定めるかについて法令で定まった方法はありませんので、譲渡人と譲受人の合意によることとなります。
株式譲渡の代金の定め方には、貸借対照表の純資産額を基準とする方法(コストアプローチ)、対象会社の収益から計算する方法(DCF法等のインカムアプローチ)、対象会社の市場価値や類似企業のデータから計算する方法(マーケットアプローチ)、相続税の計算時に算定される株価を参考にする方法等、様々な方法があります。
中小企業庁が簡易算定ツールを公開しているため、参考にしてみてください。
株式価値の簡易計算 https://ma-shienkikan.go.jp/stock-value-calculation
なお、本来であれば価値のある株式を無償や著しく低い金額で譲渡すると、税務上、贈与とみなされて課税される可能性がありますので、ご留意ください。
5 株式譲渡契約書の例
以上の解説を踏まえた株式譲渡契約書の例は、以下のとおりです。
なお、この例は、あらゆる株式譲渡に対応したものではなく、株式譲渡に最低限必要な条項を掲載したものです。M&Aに特有のリスク回避などの条項は含まれていませんので、ご利用にあたっては、弁護士等の専門家にご相談ください。
株式譲渡契約書
●●(以下「譲渡人」という。)と●●(以下「譲受人」という。)は、譲渡人が保有する株式会社●●(以下「対象会社」という。)の普通株式●株(以下「本株式」という。)を、譲渡人が譲受人に対して譲渡することに関し、以下のとおり株式譲渡契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(株式譲渡)
譲渡人は、20●●年●●月●●日(以下「クロージング日」という。)に、譲渡人の保有する本株式を譲受人に譲り渡し、譲受人はこれを譲り受ける。
第2条(譲渡代金)
本株式の譲渡代金は、金●●円(1株あたり金●●円)とする(以下「本譲渡代金」という。)。
第3条(株式譲渡の実行)
1. 譲受人は、譲渡人に対し、本株式を譲り受けるのと引き換えに、クロージング日に、本譲渡代金を、譲渡人の指定する銀行口座に振込送金の方法により支払う。振込手数料は譲受人の負担とする。
2. 本株式が譲渡制限株式である場合には、譲渡人は、クロージング日までに、本株式の譲渡につき、対象会社の承認を得なければならない。
3. 対象会社が株券発行会社である場合には、譲渡人は、クロージング日に、本株式の株券を譲受人に交付しなければならない。
4. 譲渡人及び譲受人は、本株式譲渡の実行後直ちに、対象会社に対し、譲渡人から譲受人への株主名簿の名義書換を行うよう共同して請求するものとする。
第4条(協議)
本契約に定めのない事項が生じた場合及び本契約の解釈に疑義がある場合には、譲渡人と譲受人が協議の上で解決する。
以上のとおり合意したことを証するため、本契約書2通を作成し、譲渡人・譲受人がそれぞれ記名・捺印の上、各1通を保有する。
(締結日付)
(譲渡人)住所・氏名
(譲受人)住所・氏名
6 おわりに
ここまで株式譲渡について解説してきましたが、いかがでしたか。「少し難しいな」と感じたり、「自分/自社の場合はどうなるのか?」と疑問を抱いたりされた方は、ぜひ、当拠点の弁護士資格を持つコーディネーターにご相談ください。株式譲渡のご相談の際には、会社の登記をご持参いただくとスムーズです。 また、株式譲渡や事業承継に関する税務面のご相談については、当拠点の税理士資格を持つコーディネーターにご相談ください。
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