経営者応援ブログ

CCC(キャッシュ化速度)にご用心

東京都よろず支援拠点のコーディネーター戸田正弘です。

今回は、ビジネスモデルを作る際に見落としがちなCCC(キャッシュ化速度)についてお話しいたします。急成長しているスタートアップ企業が資金ショートして、いつのまにか“死の谷”に落ちてしまう場合の原因に多いのが、CCCに起因する運転資金不足なのです。

営業キャッシュフローが1回転する期間(日数)をキャッシュ・コンバージョン・サイクル(Cash Conversion Cycle)略してCCCと呼びます。「現金→仕入→買掛債務→在庫→販売→売掛債権→現金」というキャッシュの流れが1回転するのに要する日数のことですが、これを算式で表すと、「CCC=売掛債権の回転日数+在庫の回転日数-仕入債務の回転日数」となります。

上記の図は、ワークマン社の有価証券報告書を基に筆者が計算して同社のCCCを図式化したものです。同社のCCCは83.9日、即ち、在庫投資した運転資金が1回転して戻ってくるまでに約84日かかることを表しています。

この計算プロセスは、次の表の通りです。

このCCCの日数は短ければ短いほど良いのです。例えば、飲食店が、近所のスーパーでトマト1個を100円で現金で買ってきて、翌日冷やしトマトにして200円でお客様に現金で売れば、CCCは1日ということになります。それに対して、お買い得の缶詰をまとめ買いしたけれど、在庫を消化するのに何カ月もかかったりしたら、その間お金を寝かしておくことになりますので、CCCは長くなり、資金効率は悪くなります。

CCCを短くするには、算式により、①売掛債権を早期回収して縮小すること、②在庫を減少すること、③仕入債務の支払いを長期化すること、があげられます。

具体的には、売掛債権の回転日数は顧客からの回収サイトで決まりますから、これを改善するには、顧客との取引条件を見直す必要があります。一方、在庫の回転日数を減らすためには、生産工程を見直すなど仕事のやり方を抜本的に改革する必要があります。また、仕入債務の回転日数は仕入先や外注先への支払サイトで決まりますから、これを改善するには、仕入先との取引条件を見直す必要があります。CCCはビジネスモデルのあり様で固定化しますので、これを改善するのは時間がかかり簡単ではありません。

下記の表は、ビジネスモデルの異なる上場企業4社のCCCとROEを比較するために筆者が作成したものです。

売上の回収が速く、在庫が少ない企業は、CCCがマイナスになっていて、運転資金を調達する必要がないので、資金効率の良さがROE(注)の高さに現れています。一方、在庫の多い企業は、CCCが半年を超える例もあり、資金効率の悪さがROEの低さに現れています。

(注)自己資本利益率(ROE)とは税引後当期利益を自己資本で割った比率で、株主や投資家が重視する指標。国際標準的には8%以上が望ましいとされている。

中小企業でも、資金繰りが忙しい企業の決算書を見ると、驚くほど在庫が多い企業が散見されます。事情を聞くと、ロットを大きくしてまとめて仕入れると割引率が良いから、という答えが多いのですが、仕入先と交渉してロットを小さくして頂いた途端、資金繰りが楽になるケースが少なくありません。

起業する場合、誰に、何を、どのように売るかという、ビジネスモデルの基本構造を熟考するのは当然ですが、将来、運転資金で苦労しないように、CCCに配慮することをどうか忘れないでください。

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