東京都よろず支援拠点 新橋事務所所属コーディネーターの佐藤裕二です。
【伴走型支援】
私は東京都よろず支援拠点では伴走型支援を担当しています。時間をかけて課題を明らかにして、設定した課題解決をサポートしていきます。サポートなしでも課題の解決策を実施していける(自走化と呼んでいます)ようになるまで伴走します。
さて伴走型支援のように、長期間のサポートをしていこうとすると、必ず課題になるのが人材戦略になります。中小企業では、就業規則の作成や36協定の届出(法定労働時間を超えて労働者に時間外労働(残業)をさせる場の労働基準法第36条に基づく労使協定のこと。所轄労働基準監督署長への届出が必要です。)といった基本的な話から始まる場合もあります。
人材戦略のなかでは、評価制度の構築を課題とする企業が多いようです。そして採用、配置、育成、定着の4つはほとんどの企業の課題でもあります。
【人事評価制度の構築】
今回は人事評価制度の構築について、説明したいと思います。お聞きしたいのは御社の社員のレベルです。優秀です、もうすこし頑張ってほしいなど、様々な評価があるでしょう。
問題はそれぞれその人に見合った評価(給与、賞与、役職)になっているかどうかです。社内で同じ仕事をしている人や同業他社と比べて遜色ない待遇になっているでしょうか。
利益が出ていなくて、待遇の改善の出来ない状況にあるなどの問題もあるでしょう。しかし採用も大切ですが、退職を防ぐのが一番の人材戦略になります。採用のための費用が必要になり、採用してからも研修が必要で育成期間に必要になる費用を考えると、待遇改善で費用が掛かったとしても、継続して働いて頂いたほうが良いのではないでしょうか。
退職の理由は、自分の評価が低い・給与が低い・上司と合わない、職場の環境が悪い等が多いようです。その多くは人事評価制度の構築と運用がうまくいっていれば防げたかもしれません。
まだ人事評価制度が構築できていない事業者様には、構築の検討をお勧めいたします。
【中小企業の人事評価制度】
人事評価制度というと役職、部署ごとに細かく規定された評価の一覧表を思い浮かべる方も多いのではないのでしょうか。社員をたくさん抱え、人事部に何名も配置されているような企業であれば、細かく規定された評価基準が必要になります。
しかし総務部が人事もやってます、給与計算や社会保険関係は社労士に丸投げですといった事業者様で、詳細な内容の人事評価制度を作っても運用ができないというのが実情です。
そのため項目を極力抑えた評価基準、評価シートを作成するのが良いと思われます。
【構築の手順】
1.理念・ビジョン
人事評価制度の策定の前提条件として必要なのが、会社の理念、ビジョンです。評価制度は会社の理念を実現させるためにあります。また評価制度を運用することで、社員に理念を浸透させていくのです。
人材採用のときに、応募者(とその家族)は必ずホームページを見ています。そこに現れている会社の理念やビジョンが応募動機のひとつになる時代です。
この理念の内容を評価制度の内容に含めていきます。社員が理念やビジョンを意識するようにします。同じ方向を向く人たちで構成される会社から、退職する人は少なくなります。
2.5年後の理想の人材像
5年後の当社のリーダーはどんな人であって欲しいか。また社員の持つべきスキルはなにか文書化してください。そして現在とのギャップを考えます。そうすると、自社の人材の問題点が見えてきます。そこから課題解決の施策を考えていきます。
この課題の解決はどのように人材育成をするかということになります。階層別の研修を実施していますか。OJTという名称で育成をリーダーにまかせっきりにしていませんか。理想の人材に育成するためにどうすれば良いかと考えればやるべきことがはっきりしていきます。
さらに後継者やリーダーを育成するためにはジョブローテーションも必要です。中小企業のように人材が少ないと、優秀な人材が抜けると困るので、なかなか違う部門に異動させることができません。しかし意識して他部門の一部でも経験させ、知識として持つことができるような業務の配分が必要になります。
3.等級レベルの策定
社員の等級をどのようにするかも決めなくてはいけません。スタッフ、リーダー、マネージャーなどの分類を決めて、組織の規模によってはそのなかにいくつかの等級を設定します。
今でも社員、主任、係長、課長、部長などの名称を使っていると思われます。これをきちっと規定する必要があるということです。
4.評価基準の策定
目標の設定は成果目標(業績を上げるための役割、仕事)、能力目標(目標達成のための能力、知識、資格等)、情意目標(仕事のための正しい姿勢や考え方)の3つをベースに等級ごとに文書化します。さらに、営業部・管理部・製造部といった部門ごとに作成が必要になることが多いようです。
この目標の中に理念やビジョンそのものやそこから派生する内容を盛り込むことが大切です。
また目標数は極力抑え、それぞれの目標で3つから5つくらいに絞ります。
5.評価シートの作成
等級ごとの目標を個人に落とし込んだ評価シートを作成します。評価シートの点数の付け方も簡単にしましょう。A~Cや1~5点といったものにします。これで、本人と一次評価者が点数を付けていきます。
評価シートが簡易で評価項目が少ない構成にすることで、被評価者と評価者が受け入れやすいものになります。
中小企業では一次評価をリーダー・課長クラス、二次評価が社長や幹部ということになると思われます。
6.面談とフィードバック、面談シートの作成。
評価制度は昇給やボーナスの考課のために策定、運用しますが、一番大切なのが面談を実施するということです。この社員との面談ができてない会社が退職者を多く出しています。
面談の前に面談シートを作っておきましょう。評価者が何を話すか決めておいた方が話題を作りやすくなります。話すこと聞くことをはっきりしておきます。伝えたいこと、聞きたいことの漏れがないようにします。
またここで理念やビジョンについて話題にすることも大切です。理念やビジョンを意識してもらう機会になります。
面談シートを残すことで、評価者が変わってもいままでの経緯等が忘れられることのないようにします。
7.賃金テーブルの作成
賃金テーブルのない中小企業も多いようです。評価制度を策定するにあたって、整備しましょう。既存の社員の賃金をエクセルシートなどで表にします。賃金の幅を5,000円刻みにするなどと決めて、昇給した場合、どこに位置するかわかるようにします。
中途採用の時にはこのテーブルをもとに位置づけをして、調整手当などで実態と合わせていきます。
賃金テーブルと等級をリンクさせれば、評価制度が構築できたことになります。
【評価制度の運用】
評価をする期間は4月から9月で10月に面談と評価をするというように、事業年度にリンクする日程を設定して、社員に告知します。評価者には評価者訓練、面談シートの書き方を指導する必要があります。
評価制度は定着するのに3年程度かかると言われています。毎年PDCAで回して更新していく必要もあります。
まだ評価制度の構築が出来ていない事業者様には是非今回の説明を参考にしていただければと思います。