こんにちは。コーディネータの浅沼聡です。
今回は「従業員はどのような経営者についてくるのか」という、組織におけるリーダーシップ論です。
このブログを読んでいただいている読者の皆様も、これまで一度は経営者の下で勤務された経験があるかと思います。もしくは現在、従業員を引っ張っていく立場にある方も多いでしょう。でも、あまり「リーダーシップ」について深く考えたことはないかもしれません。
私は、事業承継の支援に携わることが多いのですが、その中のひとつに「後継者候補(親族後継者、従業員後継者など)に従業員はついてくるのか?」という見逃せない課題があります。
では、そもそもリーダーシップとは何でしょう。また、後継者はどのようにリーダーシップを活用し、発揮していくことが求められるのでしょうか。
リーダーシップ論は、先人によりいろいろと分析され、様々な定義がされていますが、
その中のひとつをご案内します。
「Leadership is a major way in which people change the minds of others and move organizations forward to accomplish identified goals.」1)
(下記和訳は、ブログの筆者浅沼によるものです。)
「リーダーシップとは、構成員のマインドに変化をもたらし、共有された目的やゴールの達成に向けて組織を前に進める“力” である。」
まず前提として、「共有された目的やゴールが存在していること」が必要となります。
そして、リーダーにはその組織の目標達成に向けて、その構成員のマインドに変化をもたらす“力”が必要であると解釈できます。逆に従業員の立場からすると、自分のマインドに変化が及ぼされる必要もあります。
そこで、「何が従業員のマインドに変化をもたらす力なのか」。これを、ジョン・フレンチとバートラム・ラーベンが5つに大別しています。
(1)「Reward power」(2)「Coercive power」(3)「Legitimate power」(4)「Referent power」(5)「Expert power」です。
2)この5つの力を経営者は意識して、活用することが大事になってきます。(下記和訳は、ブログの筆者浅沼によるものです。)
(1)Reward power 報酬活用力
「構成員が求める報酬や昇進、昇格、賞賛を与えることにより、マインド変化をもたらす力」
成果を出した人、補佐役として陰で支えている人、合意した個人やチームの目標達成に向かって努力している人等に、報酬や賞与、高い評価を与えることです。構成員の前で賞賛することでも、大きくマインド変化がもたされます。
(2)Coercive power 強制力
「構成員が恐れる減給、降級、叱責、左遷を行えることにより、マインド変化をもたらす力」
行き過ぎた言動は「ハラスメント」になりますので、十分に注意が必要です。自他の命や精神に危害を加えかねない行為を除いては、構成員の前で叱責することを控えます。1対1で話し合うことが求められます。
人事評価に基づいた強制力ですが、話し合うことで、前向きに進むようにすることが大事です。
(3)Legitimate power 正当力
「構成員自身が、自分には従う義務があると認識している場合に働く力」
上下関係が明確であり、絶対的に命令服従が必要とされる組織です。軍隊や警察など階級が明白である組織をイメージするとわかりやすいでしょうか。
軍隊ではないですが、会社の創業者に対しても、従業員は自ずと正当力を働かせます。積極的か消極的を問わず、創業者の意見や考えに対しては、組織的にも個人的にも、「ついていく必要がある」と思うことでしょう。
(4)Referent power 尊敬・憧れ力
「構成員にリーダー自身の個人的な魅力を感じさせたり、尊敬や憧れ、一体感を感じさせたりすることでマインド変化をもたらす力」
会社や仕事に対する理念や姿勢、考え方、従業員や取引先に対する対応の仕草や誠実さ、熱い志、信念、不断の努力、成長しようとする気持ちと行動など、尊敬に値する言動はマインド変化をもたらします。自分の精神的成長を促してくれる人に、人はついていくものなのでしょう。
(5)Expert power 専門力
「リーダー自身の技術や知識、能力などが構成員のそれよりも優れていることを、構成員自らが認識することにより、マインド変化をもたらす力」
経営者や上司の能力や技術が優れていることは、大きな力として従業員のマインドに変化をもたらします。自分の技術的・能力的な成長を促してくれる人に、人はついていくものです。
この専門力の場合、同時に伝え方を工夫する必要があります。技術職の場合は特にです。経験がものをいうことを否定するものではありませんが、「見て盗め」では、共有されたゴールの達成に、組織として前に進むことはできません。
以上、従業員のマインドに変化をもたらす力をみてきました。事業承継でも重要な支援ポイントです。
従業員は、組織の創立者に対しては、自ずと畏敬の念をもち、自分は従う義務があると認識してついていきます。上記の③です。創立者は組織の所有者であり、絶対的な権力者です。しかし従業員は、後継者に対して創立者に対すると同様の畏敬の念をもっていないのが一般的ではないでしょうか。
次期後継者には(1)から(3)の公的に与えられる”力“に加え、(4)と(5)のような自らの意識や不断の努力によって得ることができる“力”を兼ね備えたうえで、(1)から(5)を意識的に活用し、リーダーシップを発揮することが求められます。
1)Chester I. Barnard「The Functions of the Executive」
2)IAAP 2009 Administrative Professionals Week Event April 28, 2009「Leadership Theories and Styles」