経営者応援ブログ

未払いの売掛金を請求し、分割で支払ってもらうことになった。合意書を作成したい!

こんにちは。東京都よろず支援拠点サブチーフコーディネーターの関義之です。
今回のテーマは、合意書の作成です。

私は、 弁護士のコーディネーターとしてご相談を受けることが多いのですが、よくある相談内容は、 契約書や利用規約を作成したいというものです。
契約書の作成に関しては、東京都よろず支援拠点のYouTube動画で基本的なポイントを解説していますので、こちらを是非ご覧ください。

「よくある相談内容から考える 契約書作成の留意点」
https://youtu.be/lOKALx6DqE0

契約書は、 取引を始める際に作成するものですが、 いくらしっかりした契約書を作成しても、約束した売掛金が払われないという事態が起こりえます。

売掛金を回収できないと資金繰りが苦しくなり、最悪倒産に至るということもあり、 契約書の作成のみならず、契約後の債権回収も確実に行っていきたいものです。

売掛金などの債権回収の基本的な流れは、1)交渉→2)法的手続となります。

1)は、文書送付(請求書、内容証明郵便など) 、電話、面談などの方法で支払いを促すのですが、それでも、払ってもらえない場合には、2)法的手続に移ります。
2)法的手続については専門的な知識が必要であり、迅速に進めなければならないため、すぐに弁護士に依頼することをお勧めしていますが、 請求額が小さい場合など、 費用対効果の観点から、 弁護士に依頼せずに自分で手続を進める方もいます。そのような方に向けて、 東京都よろず支援拠点の下記経営者応援ブログにて、参考となる裁判所のWebサイトをご紹介していますので、こちらもご覧ください。

「売掛金を払ってもらえないので、裁判したい!」
https://tokyoyorozu.go.jp/2022-09-10/

また、債権回収は、相手方に資力があるかによって最適な手段が変わります。 従って、 資産調査が極めて重要なのですが、資産調査の中でも登記からわかる情報については、下記Webサイトで基本的なポイントを解説していますので、あわせてご覧ください。

東京都中小企業診断士協会中央支部 専門家コラム
「取引開始前の与信調査や債権回収時の資産調査に有用な登記情報」
https://www.rmc-chuo.jp/report/2024050103/

前置きが長くなりましたが、今回は、 [1]粘り強く交渉した結果、 [2]法的手続に移る前に、 売掛金を分割で支払ってもらうことで合意することになった場合に、どのような内容の合意書を作成すればよいのか、書式例とともに基本的なポイントを解説します。

ただし、 あくまで一例ですので、 具体的な事案に応じて、 カスタマイズしてください。 ご不明な点があれば、弁護士にご相談ください。

【前提】

・売主(相談者) :甲
・買主(相手方) :乙(乙の代表取締役:丙)
・取引内容:甲と乙との間で取引基本契約を締結。 商品代金の支払いは、 毎月末締め、 翌月末払いの約定で、乙が継続的に甲の商品を購入していた。
・請求内容:乙が商品代金の支払いを3か月分滞ったため、甲が合計300万円を請求

【合意書の例】

合意書

【ポイント解説】

・第1項について
今回は、取引基本契約も終了することを想定して、合意解約の条項を入れました。
1回限りの売買契約であったり、取引基本契約が継続する場合には、 第1項は削除してください。この場合には、「第○項」についても適宜修正してください。

・第2項について
相手方の債務を特定します。この合意書では、前文と第2項で債務を特定しています。

・第3項について一括払いではなく、分割払いにする場合の条項例です。
債権回収の観点では、 分割にする場合でも、できるだけ短期で、かつ、 初回に払ってもらう金額 (頭金)をできるだけ多くなるように交渉してください。その方が回収可能性が高まります。この条項例は、 初回に100万円を払ってもらい、残額200万円を10回払いとする内容としています。

なお、確実に初回 (頭金) の支払いを受けるためには、合意書の調印と同時にその場で現金で受領することも有効です。この場合には、第3項は、次のような条項例となります。
「3 乙は、甲に対し、前項の金員のうち100万円を本合意の席上で支払い、甲はこれを受領した。
4 乙は、 甲に対し、 第2項の金員から前項の金員を控除した残金200万円を、 令和7年7月から令和8年4月まで、 毎月末日限り、 20万円ずつ分割して、下記預金口座に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
【振込口座】
●●信用金庫 ●●支店 普通預金 1234567 「有限会社●●」」

ちなみに、 一括で 「全額」を払ってもらう場合には第2項と第3項をまとめて次のように記載します。またこの場合には、第4項の期限の利益喪失条項は削除します。
「2 乙は、 甲に対し、本個別契約に基づく代金債務として、下記内訳のとおり、合計300万円の支払義務があることを認め、これを、 令和7年6月30日限り、 下記預金口座に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
【内訳】
⑴ 令和7年1月分 ●●円
⑵ 令和7年2月分 ●●円
⑶ 令和7年3月分 ●●円
【振込口座】
●●信用金庫 ●●支店 普通預金 1234567 「有限会社●●」 」

また、「一部」 (例えば200万円)を一括で払ってもらえれば残金については免除すると約束することもあります。この場合には、 第3項は、 次のような条項例になります。 またこの場合には、 第4項の期限の利益喪失条項は削除します。
「3 乙は、 甲に対し、 前項の金員のうち200万円を、 令和7年6月30日限り、 下記預金口座に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
【振込口座】
●●信用金庫 ●●支店 普通預金 1234567 「有限会社●●」
4 乙が、 前項の期限内に、 前項の金員を支払ったときは、 甲は、 乙に対し、 第2項のその余の金員の支払義務を免除する。 」

・第4項について
分割払いにするときは、このような期限の利益喪失条項を入れます。 この条項がないと、相手方が約定どおり払わなくなっても、 期限の到来していない分については期限まで待つ必要があり、 直ちに全額の請求をすることができなくなります。
期限の利益が喪失することとなる条件については交渉で決めますが、今回は、「2回以上怠ったとき」
としています。「1回でも怠ったとき」や、「2回以上怠り、かつ、その額が40万円に達したとき」などと定めることもあります。
また、 遅延損害金の利率についても当事者間で合意したものを入れてください。 何パーセントにすれば
よいかわからず、 特にこだわりがない場合には、 民法で定められている法定利率 (変動制、 現3%。 民法404条)にしておけばよいです。

・第5項について
分割払いを認める代わりに、 連帯保証人をつけてもらうことがあります。今回は、 乙の代表取締役である丙が連帯保証人になった場合の条項例としています。
連帯保証人をつけない場合には第5項は削除することになりますが、 この場合、 前文、 第6項、後文、署名欄についても、丙を入れない文言に修正してください。
なお、 連帯保証人をつける場合には民法に特別なルール (原則とその例外) があります。 保証する債務が一定の範囲に属する不特定の債務であったり(個人根保証契約の極度額の定め、同法465条の2)、事業のために負担する債務であったり(根保証契約を含む。 主債務者の保証人に対する情報提供義務、 同法465条の10)、特に、事業のために負担した貸金等債務である場合(根保証契約を含む。保証意思宣明公正証書による意思確認、 同法465条の6ほか)には特に注意が必要です。 詳しくは下記Webサイトをご覧ください。

法務省「2020年4月1日から保証に関する民法のルールが大きく変わります」
https://www.moj.go.jp/content/001254262.pdf

・第6項について
互いにこれ以上請求するものがない場合、 これ以上の紛争が起きないように、このような清算条項を入れます。
ただし、 他にも請求するものが残っていれば、 「本合意書に定めるほか」の前に、 「本件に関し、」 や「本基本契約に関し、」などの文言を入れ、清算条項の対象を限定したり、「●●は除き、」などと清算条項の対象から除外するものを明示してください。包括的な清算条項を設けてしまうと他の請求をすることができなくなりますのでご注意ください。

・公正証書について
合意が成立するときには、合意書のほか、公証役場で公正証書を作成してもらうこともあります。
強制執行認諾文言が入った公正証書があれば、 相手方が約定どおり支払いをしない場合に、 裁判をしなくても、いきなり相手方の財産(例えば、預金口座)を差し押さえることができます。
長期の分割を認める場合など、債権回収に不安があるときには、 公正証書の作成を検討するとよいでしょう。
公証役場や公正証書については、下記Webサイトをご覧ください。

日本公証人連合会 
https://www.koshonin.gr.jp/

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