こんにちは。東京都よろず支援拠点 コーディネーターの荒谷司聖です。
■値上げを「現場任せ」にしていませんか
「値上げは営業がやるもの」
そう考えている企業は少なくありません。現場が取引先と向き合っている以上、交渉の最前線に立つのは営業です。しかし、「誰がやるか」と「誰が決めるか」はまったく別の話です。
価格は経営判断です。ここを切り分けないと、知らないうちに会社の利益構造が崩れていきます。
■営業任せにすると何が起きるか
ある会社では、値上げを営業に一任していました。結果どうなったかというと、受注は維持されましたが、利益は大きく落ち込みました。理由はシンプルです。営業は「仕事を取ること」がミッションだからです。値上げを強く出して失注するより、少し値引いてでも受注を確保する。これは現場としては合理的な判断です。
しかし、それが積み重なるとどうなるか。会社全体で見ると、粗利が削られ、利益が出ない構造が出来上がっていきます。現場の判断としては正しくても、経営としては誤り。このズレが問題の本質です。
■価格は「経営意思」で決めるもの
価格は単なる数字ではありません。どのくらい利益を出し、どこに投資し、どんな会社を目指すのか。こうした意思が反映されたものです。つまり価格とは「経営戦略そのもの」です。
ところが実際には、「原価が上がったから少し上げたい」「相場がこうだからこのくらい」といった曖昧な基準で決められているケースが多く見られます。これでは交渉に芯がありません。相手からも主導権を握られやすくなります。
■まず決めるべきは「いくらで売るか」
重要なのは、交渉に入る前に「自社はいくらで売りたいのか」を明確にすることです。
ここが曖昧なままでは、交渉のたびにブレます。たとえば、
・最低いくらなら受けられるのか
・理想としてはいくらで売りたいのか
・どこまでなら譲れるのか
このラインを決めるのは、営業ではなく経営の役割です。現場はその枠組みの中で動くべきです。逆にここがないと、現場は判断に迷い続けます。
■事業計画と価格をつなげる
価格は単発の対応ではありません。本来は、事業計画の中に組み込まれるべきものです。
・将来どのくらいの利益を出したいのか
・人件費や設備投資をどうしていくのか
・どの取引先を強化したいのか
こうした方向性から逆算して、必要な価格を考えます。この思考がないと、価格交渉はその場しのぎになります。結果として、一貫性のない対応になってしまいます。
■評価制度も見直す必要がある
さらに見落とされがちなのが、営業の評価制度です。たとえば「売上額」だけで評価している場合、営業は値下げしてでも数字を作ろうとします。これは仕組みとして自然な動きです。
一方で「粗利」や「値引き率」を評価に組み込めば、行動は大きく変わります。つまり、価格を守れるかどうかは、個人の意識ではなく仕組みの問題でもあります。経営がここに手を入れない限り、現場に任せても改善は進みません。
■値上げは「一度きりの話」ではない
もう一つ重要な視点があります。値上げは一度やって終わりではありません。今後も繰り返し発生するテーマです。原価も人件費も上がり続ける中で、価格をどう維持・改善していくか。これは継続的に考えるべき経営課題です。
にもかかわらず「今回だけ何とかする」という姿勢では、同じ問題を何度も繰り返します。価格交渉はイベントではなく、経営の通常業務と捉えるべきです。
■一人で決めきれないときに
とはいえ、「いくらで売るべきか」を決めるのは簡単ではありません。感覚だけでは不安が残りますし、間違った判断をすれば影響も大きい。だからこそ、多くの企業が踏み切れずにいます。ここで重要なのは、「自社だけで抱えない」ことです。
■次の一歩:よろず支援拠点の活用
東京都よろず支援拠点では、価格設定そのものから一緒に整理することができます。
・適正な利益はどのくらいか
・どの取引先をどう位置づけるか
・交渉のラインをどこに置くか
こうした「経営としての価格」を具体的に言語化できます。価格交渉が難しいのは、技術ではなく「意思が曖昧なまま進めていること」が原因であるケースが多いのです。まずは「自社はいくらで売りたいのか」。ここを一度、整理してみてください。その答えが、交渉の土台になります。
第二回はこちら 値上げできる会社になる価格交渉術シリーズ 第2回 それ、利益出てますか?
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